お悩みの内容(主訴)
数年前から原因不明の入眠困難で悩んでいる。
ベッドに入っても思考が止まらず、頭の中がうるさい感じがする。
日頃からイライラすることが多く、周りの人が気にならない事でさえ自分だけ気にしてしまい、それを理解されない事にさらにイライラしてしまう。無頓着な人・周りが見えていない人を見るとイライラしてしまうが、自分が気にしすぎる性格であることも自認している。
自分の気にしすぎる性格や不眠が体質によるものなのか?もしそうであれば漢方で改善できるのか?興味があって来店してみた。
主訴以外の症状
・眼精疲労 ・火照り ・頭痛 ・多夢 ・生理痛が強い ・PMSが強い
改善案
今回のケースは五臓の中の肝胆の不調から肝火が発生し、それが心火へと伝搬しているタイプの不眠と考えました。
五臓の一つ肝には疏泄機能という働きがあります。疏泄機能とは体中に気を巡らせる働きで、疏泄機能がしっかりと機能していると気が分散され、まさに気分が良い状態となります。
肝は五志の中の【怒(ストレス)】の感情に弱く、ストレスがかかった状態が続くと疏泄機能が低下します。疏泄機能が低下すると、気の巡りが悪くなります。気は温かい性質があるため、巡りの悪くなった気はグツグツと熱を帯び、火へと化けます。体内に火が発生している状態を肝鬱化火と呼びますが、この状態が長引くと火は心へと延焼してしまい、心火が発生して不眠を引き起こします。
この状態になると精神が常に昂ったような状態になり、一見すると元気があって、物事の判断が早くテキパキと行動する印象がありますが、悪く言えば、イライラしやすく短気で怒りっぽい性格になります。夜になっても脳が興奮してしまい寝つけなくなります。
対策として、心火を清熱して精神を安定させる漢方薬と、心身をリラックスさせ気の巡りを促すような漢方薬を併用しました。また揚げ物・香辛料・アルコールは極力NGに。就寝直前に映画を観る事も控えていただきました。日中や緑茶を飲んでいただきましたが、カフェインの問題があるので14時までとさせていただきました。
イライラした時は席を立ち、散歩をしたり階段を上り下りして体を動かしていただきました。就寝時は室温をしっかりと下げて、頭が暑く感じる場合はアイスノンをタオルにくるめて枕にしてもらいました。
経過・予後
服用開始2週間で明らかな睡眠の変化が起こりました。まず入眠しやすくなり、寝つきが悪い日は1日程度になりました。
また、火照りやイライラが減ってきて、頭を縛るような頭痛もなくなり頭が軽くなったような感覚が出てきました。初来店の時は頭を縛るような感覚が毎日あったのでそれが【当たり前】と感じていて言い忘れてしまったようです。
眼精疲労も改善し、脳が軽くなり、考える事もポジティブになってきたので総じて体調の良さを感じているとの事でした。調子は良くなりましたが、夏場で熱もこもりやすい時期だったため、もうしばらくは同じ処方で継続していただきました。
16週間後、すっかり調子が良くなったため、漢方の服用は1日1回にして良い状態を継続中です。
漢方の不眠の原因には五志の失調というものもあります。これは怒り・憂鬱・悲しみなど一時の感情も不眠の原因になるという事です。しかし、感情の不調も常態化すると臓を傷めて慢性化します。この方のように知らず知らずのうちにストレスをため込んでいて、気が付けばストレス性不眠になっているというケースは意外と多いものです。漢方で性格や些細な不調、そして不眠まで同時に改善した良い例と言えるでしょう。